文藝春秋「安倍晋三は変わったのか」寄稿
本州と九州を隔てる関門海峡は、大型客船や貨物船、ときに軍艦が海面を滑るように行き交い、眺めていて飽きない。その海峡を臨む「海峡メッセ」で十月二十日午後三時半過ぎ、安倍晋三の講演が開かれた。四階のイベントホールは、就任したばかりの自民党新総裁の姿をひと目拝もうとする下関市民であふれ返っていた。講演会場への入場希望者は、警備の必要性からホールの前で記帳し、金属探知機の門を潜らなければならない。その記帳の数一千百人。なかへ入ると空席を探すのに一苦労だ。集った聴衆は、まさに万雷の拍手で凱旋した自民党新総裁を迎えた。
「今日は全国龍馬ファンの集いということで参りました。龍馬は好きですけど、やはり地元下関ですから、高杉晋作なんですね。この講演を引き受けるにあたって、船中の八策をもう一度読みなおしてみました。大阪維新の会の八策はよく読みましたけど……」
ジョークを交え、軽妙な調子で目当ての安倍が話し始めた。
思い直せば、そこまで注目されるようになったのは、ごく最近で、せいぜいこの春以降だ。それまは、病気で責任を投げだした宰相、というイメージでしかない。安倍晋三は、なぜ急浮上したのか。
自民党総裁選における秘話もありますので、ぜひ。